車は鹿児島市内から南九州道へと走っていく。BGMはもちろん俺の沖縄CDだ。
「ポンコツもすっかり民謡づいちゃったね」
「そうだな。この数年ですっかりおかしくなったよ(笑)。そうだ、天才少女のCDを聞くか?」
ここで、BGMは八重山民謡の天才少女・比嘉真優子ちゃんのCDに変わる。
「このCDは俺初めて聞くよ。まゆちゃんの声だね」
実は八重山民謡をずっと稽古しているモネは、比嘉さんと同じ師匠に習っているのだ。
「今年の優秀賞の民謡コンクールは、歌ってて“こりゃだめだ”って思ったな。本番一ヶ月前は台風の後始末でろくに稽古していなかったもんなあ。まあ、言い訳になるが」
「仕事しながらじゃ、仕方ないよ。それが社会人の宿命さ」
「でも来年はリベンジするさ。課題がわかっているからね」
2年前、新人賞の受験に燃えていたころより、モネはすっかり唄者としての自信というか、多少風格が備わってきたのかな?
俺も、早く追いつかなきゃって昔は思っていたのだろうが、今はそんな気持ちがなくなった。
渡嘉敷師匠の課題曲を覚えるのに手がいっぱいで。
「ポンコツよ、勘違いしないでくれ。宮古(民謡)をやめたわけじゃないさー! いつか、多良間島にまた暮らすつもりでいるのだから」
「そうか、八重山のまゆちゃんとか、みんなは元気かい?」
「研究所は今は女ばっかり。男の弟子は俺入れても4人しかいない。もうちょっと増えれば良いけど」
「いまだに2年前の石垣島での師匠の発言は忘れられないよ。“おい、ずーじゃないよ! どぅーだよ!”ってさ」
「アハハハーー(爆)。それは今も変わらないさ。で、八重山民謡を突き詰めていくと当然コンクールの課題曲は難しいし、毎年審査基準は上がっているっていうし、歌うのが楽しくなくなったってことで、稽古に来なくなる人も多いね」
「それは本末転倒だな」
「そうだね、どっちを取るかだよ。賞や名誉を目指すのか、楽しむ範囲にとどめておくのか?」
「沖縄の芸能も結構肩書社会だね。流派もいっぱいあるし。俺も数回、ポンコツさんはどこの流派って聞かれたよ? 多良間島の渡嘉敷師匠だって言ってもだれも知らなかったが(爆)」
「その反動かな? 俺が奄美に惹かれはじめてるのは。奄美には流派がないんだよ。それこそ各集落が独自の民謡を持っていて歌い告がれているらしい」
会話が尽きないが、2年前の石垣島では全く沖縄民謡に興味のなかった俺でも、ここまで会話ができるようになったってことに驚いたね。その分、いっぱい周りの人を呆れさせたのだろう…。
薩摩金山蔵へ着いた。