「そうだな、この前教えた曲をやりなさい。聞いてますから」
ってことで、まず歌い始めたのは「家庭和合」だ。
半年前に師匠の手本を見たときに“こんなことできるかよ?”って思っていたが、
なんとか三線も弾き、歌詞も覚えたつもりである。
「ゆや あきどぅ さまずううや よ…」
三番までつっかえずに終わった。
師匠は「ポンコツ君、CDの聞きすぎだね」と不機嫌そうに言った。
そして「ポンコツ君、歌詞の意味は理解してるかね?」
「はい、歌詞集を読みました」
「この歌は、お嫁さんが“お義父さん お義母さん、起きて下さい もう夜が明けましたよ”とささやくような感じで 両親をいたわる歌なんだよ。君の歌い方だと、寝ているお義父さんお義母さんが、びっくりして踊りだしちゃうよ」
この師匠の指摘は、自分にとってはショックそのもので、酔っていたせいもあるけど、
どこがだめなのかがさっぱりわからなかったのだ…。
「鹿児島でもっと稽古してきなさい。人前でたくさん歌ってきなさい。じゃあ、次の曲」
「次は、多良間しゅんかに を歌います」
三線を弾き始める。
「まい どぅ ゆー まー ずー …」
半年前はゆまちゃんが手本を見せてくれたね、この曲は。
そのゆまちゃんを面前に歌うというのも、なんかの縁なのだろう。
歌い終わった。
「ポンコツ君、この曲は良く出来てるね。半年で良く覚えてきたね。なあ、ゆま」
師匠のとなりに居るゆまちゃんが静かに師匠の問いかけに頷いている。
ほっとした心境の自分であった。
「ポンコツ君、今回は申し訳ないが私が声の調子が悪いから録音はしない。家庭和合をもう一回稽古してきなさい。で、夏にまた来るでしょ?」
「はい」
「さっきから見てたけど、君はそこそこ三線も弾けるようになったし、次回は早弾きを少し教えよう。宮古の早弾きもだし、唐船ドーイなんかもよいな」
と言って師匠は三線を手にし、「唐船ドーイ さんてんまん」と歌い始めた。
カラオケボックスの電話が鳴った。どうやら時間らしい。
「ポンコツ君、とうがにあやぐ はまた次回聞くことにしよう。次の店に行くよ。美和子ママもそこで合流する」
三線をケースにしまい、部屋に置いてから、次の店に向かった。
「家庭和合」の課題と、少ない時間の稽古、新しい課題曲が今回はなく、物足りなさとむなしさが入り混じっている心境になった自分であった…。