「ポンコツ君、飛行機の時間も迫ってきたから、あと1曲だけ教えよう。何か、やりたい曲はあるかね?」
うーん、ほんとは、“クイチャー”と言いたかったのだが、まだまだ課題だらけの
自分ではちょっとおこがましいかな?
「師匠? 田舎に泊まろう、でゆまちゃんと歌ってた?」
「宮古豊年音頭だね、よし。まず私の唄を聴きなさい!」
師匠は宮古豊年音頭を歌う。田舎に泊まろう、でのテレビ画面がよみがえるね。
あのとき踊っていたオバア(師匠のお母さんだが)も、元気だったね。
師匠は、オバアの面倒をみるために結局役場を辞めたわけだが、それによってまあ、
ここでは言えないが、別の軋轢もあるそうだ。
まあ、稽古には関係ないからね。
で、宮古豊年音頭は、一番自分が苦手とする感じの曲だ。
テンポは速いが、でも早弾きのようになってはいけないしね。
歌詞は標準語だから、歌いやすいだろうが…。
「ポンコツ君、♪銀の花…、の部分は、声を伸ばしながら音程が高くなっていく。ここみんな
できていない。ここを意識して歌いましょう。では、私についてきなさい」
ふたりで宮古豊年音頭を歌う。ただし、「島は良い島 多良間島…♪」
さて、そろそろ午前中の一便の時間が近い。外は大雨。
師匠のボロ家(失礼!)もよく雨漏りがしなかったな。
「忘れ物は無いね。今日教えたことをマスターしたら、また多良間に来なさい」
師匠の軽トラに乗せてもらい、空港まで向かう。
大雨なので、いつものように空港までの道を風景を見ながら感慨にふける…ってなわけにはいかない。
空港に着いた。
「今日は込んでるから僕はここで失礼するよ。元気でいなさい」
師匠を乗せたボロ軽トラは遠ざかっていく…。
カジマヤー帰りの人でロビーは混雑している。一応運航はするみたいだ。
ん? あれ? バッグがないなあ。
まさか! ありゃ、師匠の家に忘れてきた。
さっそく携帯に電話だな。
「師匠すみません。青いバッグを忘れました。持ってきてください!」