予定も何もあったもんじゃない師匠からの携帯で、
“稽古場”へ向かうことになった。
三線とお土産を用意して、街灯の無い(笑)道を歩く。
ものの1分で到着だ。雨が降っているがね。
「良く来たね。待っていたよ。さあ、乾杯しよう」
テーブルには俺と師匠と二人分のグラスが置かれている。
師匠が用意したつまみや刺身もあるね。
「今日はポンコツ君との再会を祝して乾杯だ! さあ飲みなさい!」
いつものごとく、稽古そっちのけで酒盛りが始まるのもいつものことだ。
稽古より、酒が第一の多良間訪問だな。
「ポンコツ君は、コンクール受けたのは何年前だっけ?」
「えーと、2年前の夏ですよ。あの、“とうがにあやぐ”で手が震えた…(苦笑)」
「そうだったな。そのときのビデオでも見るか?」
「いやあ、それはかんべんしてください。トラウマですよ(泣)」
「そうか、では、私の演歌を聴くかね?」
「はい、あの尾形大作のような…」
「尾形さんに似ているかどうかは知らんが、私ももとは演歌歌手だった。それに
あの額縁をみてごらん」
額縁を見ると、数年前に宮古で開催されたのど自慢大会で、師匠が優勝したときの
記事のスクラップだった。
「あれ? これ師匠じゃないですか! すごいですね! 若いですね!」
「ポンコツ君、若いは余計だ(笑)。今でも若いし、カッコイイ」
ボケも健在だ。
CDを出してきた。
で、そのCDをコンポにセットしようと電源を入れるが…入らない。
「ポンコツ君、コンポが動かない。見てくれないか?」
あれ? これって2年前の出来事(MDを反対に入れようとしていた事件)に類似してるな。
まさか?
自分はコンポのスイッチを触るが、一向に反応は無い。
“どうせコンセントが外れてるんだろ?”
でもそうでもない。
「おかしいなあ。昨日はちゃんと入ったんだが…」
“また2年前と同じようなこと言ってるね。相変わらずのボケ全開だな”
師匠のボケを楽しみつつ(笑)、「師匠? このコンポではなく
こっちのCDラジカセを使いましょう」
でCDラジカセはちゃんと電源が入った。
師匠がCDをセットした。
聞こえてきたのは宮古民謡の重鎮・平良重信先生の声だが…。
市販のCDなのだろうが、音が違う。アレンジも違う。
三線の音は変わらないが、ギターやベースが入って、さらに
女性囃子も目立つ。いつもの宮古民謡がなんか、斬新なロックのようだね。
「ポンコツ君、ちゃんと平良先生の唄を聴いているかね? 三線準備しなさい!」
すでに俺はオリオンドラフト(発泡酒ではない)4本空けている。飲まないうちに稽古をしたいものだが…。