師匠の稽古場?へ行くと、ジュージュー音がしている。
おお、スキヤキの音だな。
「こんばんはあ」と言って家に入ると、師匠に飲んだくれの美和子ママ、
夢一家(当然暗男も居る)が、スキヤキをつついている。
「ポンコツ君? 今日はゆっくり休めたかね? 多良間へ来たのだからまあ飲みなさい」
師匠が“発泡酒”を次いでくれた。
自分は今日もオリオンドラフトを持参して、「まあこれも飲んでください」と
言いながら飲んだり食べたりだ。
嗚呼、もっと早く声かけてくれれば、たっぷり多良間牛を楽しめたのに…。
「あの、ビールもらって良いですか?」
俺は固まった。おお、暗男がしゃべったよ! 何だこいつ、しゃべれるんじゃないか?
俺はあっけにとられ「嗚呼、どうぞ…」と言ったきり固まってしまった…。
暗男も、さっきから見てれば、夢と会話したり、子供をあやしたりしてるから、
まあ、他人とのコミュニケーション障害はあるんだろうが、部外者の俺が
とやかく言うことじゃないようだな。
師匠には何度も携帯が鳴って、そのたび師匠はそわそわしている。
何かあるのかな?
「ポンコツ君、君はみんなとここでゆっくりしてればよい。実は自分は今から知り合いの
家に外出する。さっきから携帯鳴ってたでしょう?」
「はい、何か行事があるのですか?」
「ポンコツ君、明日は多良間の伝統行事のカジマヤーさ」
「カジマヤーって?」
「今年の干支は寅だよね? 寅年の人たちをお祝いするんで、多良間にねいろんな人が
帰省しているんだ。まあ、そんな人がどうしても渡嘉敷さんに来てほしいって言うからね…」
師匠は出かけていった。
それに合わせるかのように、夢一家もマンションに戻った。
部屋には美和子ママと自分が残された。
もちろん、まだ飲むわけだが。