けっこう立派な稽古場だ。机と椅子が用意され、壁には数体のが飾られている。たくさんのCDやカセットテープが飾られている。ほか、師匠の免許状、弟子たちの表彰状も。
渡嘉敷に似た師匠が言う。「ポンコツ君もやるんだってね。多少ではあるが、私たちと一緒に弾きなさい。途中つまずくまで弾いてみなさい。出来るところまで付いてきなさい」
曲は宮古民謡のスタンダード「なりやまあやぐ」だ。
宮古諸島へ来たからには一曲は知ってないとなって思って、車の中で毎日聴いていたのだ。
師匠が解説する。
なりやまや 海山は慣れての海山 馬に乗ったら決して手綱を緩めないで 女の家に行ったら心を許さないで
ってことを言っています。教訓唄でもありますが。宮古民謡で一番奥が深い曲なのです。
歌詞は5番までありますが、実際は3番までしか歌わないことが多いです。というのは、4番5番はあとから作られたから、
とわかりやすい解説である。初対面の嫌な感じは吹き飛んでいた。さすが、師匠だね(笑)。
師匠とモネに合わせて自分もを弾いて歌う。CDで聴くよりもテンポがかなりゆったり目で師匠は弾く。タメがうまく出来ない。実に重厚ななりやまあやぐだ。
なかなかリズムがつかめずに弾き終わったという感じ。
数回曲を繰り返した。師匠が言った。
「ポンコツ君、ここからはモネ君とちょっと歌うから聞いててみなさい」
ここからは宮古民謡の早弾き曲のオンパレード!
モネも早弾きはだいぶできるのだが、師匠のテクを見せられると
の奥深さを感じずにはいられない。
さっきから見てると、師匠は何も見ていない(当たり前だが)。
ふたりが早弾きしているその横で、師匠が連れてきた幼女(ここからはまりかチャンという)は稽古場をはしゃぎまわっては、踊っている。まりかちゃん、早くも大物の片鱗(?)
「ポンコツ君、モネ君はまじめに稽古してここまで出来るようになりました。今年は新人賞、優秀賞も獲得しています。君も稽古を一生懸命して少しでも宮古民謡に慣れ親しんでください」
こう言って師匠はまた別の早弾き曲を弾き始める。モネもこの曲はまだ無理のようで苦戦している。
「ポンコツ君、何か歌ってみなさい」
と言われても、どの曲も自信がないなあ。ギターだったら良かったが(笑)。
「安波節」を歌う。「この曲が一番最初マスターしたので」とか照れ笑いしながら歌う。何とか間違えずにすんだ。
「沖縄の新人賞(の課題曲)だな」と師匠はニコリともせず言った。
特別、「お前はヘタだ、これじゃダメだ、もっと練習しろ」とかそういうネガティブな発言はなかったから、大丈夫だったんだろう。俺の練習は間違ってなかったみたいだな。これで、人前で歌っても良いだろう。
最後に師匠が「伊良部トーガニー」を聴かせてくれた。俺はモネの工工四を借りて師匠の節を追っていた。師匠は完璧だった。まさに絶品の「伊良部トーガニー」だった。時計の針は夜10時を指していた。おやすみなさい。