師匠に注意され慌てて三線を取り出す。
「ポンコツさん、みんな廊下に居ますから」と柿鼻さんに言われ、控室を出る。
アナウンスが聞こえる。
「新人賞の方で、5番の方、16番の方…」って感じで。
「すいません。5番です」
「はい、もう出番ですよ、ここから動かないでください」
アナウンスの人が持っていた進行表を覗き見すると、新人賞は30人近く受験するらしい。
けっこうな数だな。早めの順番で良かったな。
「1番から5番までの方は、これから中に入りますよ」
言われるまま、中に入る。
師匠も一緒だ。
ステージの裏側だ。私語も出来ない、ピーンと張り詰めた空気が支配している。
まだ、普及奨励賞の番のようだ。
ちんだみをしようとすると、「ポンコツ君、もう三線触らないで」と師匠の声。
でも、このとき触っておけば良かったのよね。
時間は経ち、アナウンスが聞こえた。
「以上で普及奨励賞は終了します。ここで10分ほど休憩します」
何だ? 休憩かよ。すぐやってくれれば良いのに。
おかげさまで緊張タイムが増えることとなった。
この間、他の出演者と雑談することもなく、沈黙だけが支配している。
他の出演者はほんと老若男女であるが、若くして民謡に目覚めた人、俺のようにやや遅れてきた人、
島人として生活の一部に民謡が染み付いている人…等、幅が広い。
民謡は、三線は、決して一部の人の特権じゃなく、民の歌であるから、
いろんな人が居て当然なのだって気がする。
例えば、俺が正統派で、あいつは反主流派だとかいう議論はナンセンスであるね。
さて、新人賞が始まった。刻々と出番が迫ってくる。
「ポンコツ君、緊張してるかね? ゆっくり弾くことだけを考えなさい」
師匠の最後のアドバイスである。
「それと、演奏は間違えたって良い。最初と最後のお辞儀を忘れないでね」
4番目の人の演奏が終わった。いよいよ“大舞台”だな。