平良の港に着いた。接岸の際思ったより揺れて、元々船酔い気味のポンコツ君は
これで多少フラフラしてしまった。
タラップを降りる。思ったより迎えの人は少なく、ややさびしい光景だ。
残念ながら恋しいゆまちゃんも、飲んだくれ美和子ママも来ていないようだ。
ってことはここからはタクシーで移動なのかな?
「ポンコツ君? 車があるから乗りましょう」
「車って? ポンコツ車は見当たりませんよ」
「ポンコツ君、新車を買ったサー!」
軽自動車ではあるが、前の車より多少年式の新しい“中古車”が見えた。
まあ、“新車”ってことにしておこう。(笑)
軽自動車は鍵がかかっておらず、キーも付けっ放しだ。
盗難の危険とか考えないのかな? それが宮古なのかな。とうなんですね(笑)。
師匠は携帯でどこかに電話している。
やりとりのあと、「ポンコツ君、今から重信先生の研究所へ行きましょう。最終点検です。
今は生徒がそんなに来ていないからすぐできるそうです」
「わかりました」
三線を車に積んで、さあ出発。
平良の港からすっかり見慣れた宮古の市街地を走る。
っていうか、港から重信研究所は近いので、すぐ着いてしまった。(笑)
研究所に入ると、男の弟子が歌っていた。
数人の生徒と、重信先生がそれを見守る。
生徒の中には、去年も見た顔ぶれが…。
女の子の顔だけは覚えているなあ。
今は、プロとして活躍していて、「なりやまあやぐ大会」で優勝した川満さんの姿も見える。
男の弟子は「豆が花」を歌っている。
音程もしっかりしてるし、三線もうまい。風格を感じる。
しかし、重信先生は「君はうまいんだけど、演奏が少し早いね。気持ちゆっくりやってみなさい」
とアドバイスをしている。
男弟子は再度「豆が花」を歌う。
「そんな感じで明日はやりなさい」と先生は感想を延べた。
「渡嘉敷先生、先生の弟子さんに次はお願いしましょうか?」
ってことは、嗚呼、俺の出番か。
三線を準備してミニステージに上がる。
「ポンコツ君、さっきの稽古のとおり歌いなさい! 緊張しなくて良いよ」と渡嘉敷師匠が
言うが、重信先生や川満さんを始めとするお弟子さんたちが見ているのに、緊張しないわけがない。
「とうがにあやぐ」を歌い始める。なんとか汗かき汗かき歌い終わった。
重信先生が口を開いた。「君、歌がうまいね。上等だよ。明日もその調子でやりなさい」と言ってくれた。
渡嘉敷師匠も、「さっきフェリーで稽古しましたから」と笑っている。
「わかりました。ちょっと船酔いが直ってなくて…」と言ったら
客席から笑いが起きた。
「もう一回やってみなさい」と言われ、もう一度歌う。
重信先生から「演奏の前と後は、ちゃんと一礼するんだよ。意外にしない人が多いから」とアドバイスされた。
自分の出番が終わり、他の弟子さんたちの演奏を聞いている。
みんな普段から師匠の元で稽古しているからうまいのは当たり前だし、発音もしっかりしているな。
発音に自信がないのがポンコツ君の悩みだな。
ミニステージは川満さんが上がっている。彼女は最高賞を受験するようだ。
もうプロとして活躍している彼女であるから「伊良部とうがに」も他のお弟子さんとは
全然レベルが違う。うっとりしてしまうほどの美しさだ。
重信先生が言う。「渡嘉敷先生、今日はゆまちゃんは来ないのですか?」
「ゆまは今アルバイト中とのことで、あとで来させますから」
「そうかい、ゆまちゃんには協会のみんなが期待してます。去年のようなポカはないだろうね」
ゆまは、協会のおえらい先生方にも注目されている“素材”なのだな。
「ポンコツ君、そろそろ私たちは出ましょう」
ふと見ると、研究所内はこれから重信先生のチェックを受けようとする弟子さんで“満員”状態であった。
師匠に今日から宿泊する宿に送ってもらった。といっても、15秒も走れば着くのだが。
車を停め、荷物を出そうとしたが…。
「あれ? 師匠。荷物がないです!」
「どこやったかねえ」
「あっ、わかりました。フェリー乗るとき預けっぱなしだ!」
師匠もポンコツもお互い苦笑いだ。やっぱりオオボケかましたな。
平良港まで戻り、海運会社に電話した。
「すいません、多良間からのフェリーに荷物預けっぱなしです」
「コンテナに置いてありますから見てください」
指示されたコンテナに行くと鍵はかかっておらず、ちゃんと自分たちの荷物が残っていた。
「ポンコツ君、私は今晩は会合があるから、夜は何時になるかわからん。携帯に電話しますから」
「わかりました」
美和子ママもゆまちゃんもバイト中だし、今日の夜はひとりで宮古を楽しもうかな。