9時を過ぎて開会式に出席。
民謡保存協会の会長があいさつし、司会者(去年と同じ人だな)がいろいろと注意事項を述べる。
ぴりぴりしたムードはなく、どことなく学芸会を待っているようなのどかさは、去年と変わらない。
この辺が宮古らしいね。
一通りの説明が終わった。
渡嘉敷研究所は、俺とゆまちゃんしか参加者がいなくて、楽屋でも場所があるようなないような片身の狭い状態だ。
「ポンコツ君、いまから最終点検するよ。三線準備しなさい! ゆまもだよ」
楽屋から三線を取ってきて、師匠が指差したのはホールのベランダ。
「あそこでやろう。ポンコツ君が先だ。ゆまはベンチで待っていなさい」
師匠と自分はベランダへ行き、そこで自分は「とうがにあやぐ」を歌う。
昨日のフェリーと稽古と同じで、1番2番1番2番…と、延々と続く。
「緊張してるね。もっとリラックスして大丈夫だ」
自分が最終点検を受け、ベンチで待っていたゆまちゃんと交代した。
師匠が今度はゆまの歌を聞きながらあれこれ指示をしているようだ。
その光景を窓越しに眺めている。そこには師匠と弟子でもあり、親子でもあるふたりの微妙な関係が
垣間見えて、そこには他人の俺が入ることは許されないな。
大ホールでは、すでに新人賞の審査が始まっている。「豊年の歌」が聞こえてくる。
しばらく聞いていよう。
小学生が次から次へと出てくる。「なりやまあやぐ」を歌う子もいる。
去年よりもうまい子が多いな。レベルが上がってるな。
さて、楽屋へ戻ってリラックスしよう。
楽屋でリラックスのはずが、楽屋でもみんな稽古している。
紙を結ってもらいながら、「伊良部トーガニー」を歌うあぱらぎの女性がいる。
ほんとキレイな声だな。うっとりしちゃうね。
じっと見て聞いていたいが、へんな人だと思われるからやめておこう。
「ポンコツ? ここにいたの? どう調子は!」
美和子ママだった。孫のリリーも一緒だ。
「少し上がってきましたよ」
「パパとかゆまは?」
「ベランダで稽古してませんでした?」
ママは師匠たちに用があるようで、楽屋から出て行った。
三線を持って楽屋から出た。ステージ脇だけど良いスペースがあるね。
ここでちょっと歌うかな。
「うぷゆー てぃらー…♪」と気持ちよく歌ってたら
「君! 今審査中だよ。君の声が聞こえてくるよ!」と注意されてしまった。
仕方ない。楽屋へ戻るか。
戻ると、さっきのあぱらぎ女性はまだ髪を結っているし、歌も歌い続けたまま。
ここまで稽古をしてるんだな…。
俺も見習わないとね。
そんなことを思っていたら、美和子ママがまたやってきた。
「ポンコツ! モネが来てるよ! すぐ来なさい!」